「東洋哲学から学ぶ”本当の自分”とは」この人にきく・しんめいPさん①
大学卒業後、大手IT企業に就職し、順風満帆にみえるキャリアを歩んだしんめいPさん(以降:しんめいさん)。しかしその後、さまざまな挫折を経験し、無職となります。
「頑張りたいのに頑張れない」と、虚無感にさいなまれていたときに救ってくれたのが東洋哲学、特に仏教の「空(くう)」の思想でした。「空」は、からっぽの自分そのままでいいという教えだといいます。東洋哲学に救われたというしんめいさんの半生を伺いました。

しんめいP/1988年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。大手IT企業への就職や鹿児島県への移住、芸人としての活動などを経て無職に。東洋哲学者7人(ブッダ、龍樹、老子、荘子、達磨、親鸞、空海)の教えについて書いた著書『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』は、発行部数20万部を達成している。
世界はすべて「フィクション」
「本当の自分ってなんだろう」。職を失い、自信もなくし、30代で引きこもりとなったしんめいさんは、「自分とは何か」という問いに行きついたといいます。
大学を卒業し、大手IT企業に入社したしんめいさん。就職活動では面接が得意だったそうで、面接官の求める人物像が手に取るように分かったといいます。順風満帆な人生のように思いますが、しんめいさんはそこから大きな挫折を味わいます。その理由はこうです。「ぼくは、シンプルに、ぜんぜん仕事ができなかった」。「できる人間」風に見せることは得意ですが、中身がともなっていなかったと振り返ります。
「自分がどう見えるかだけを考えて生きてきた」と話すしんめいさんは、自身のことを「からっぽ」だと感じたそうです。周りに自分がからっぽだと知られたら、全ての人間関係が消えてしまう。そう考えたしんめいさんは退職後、鹿児島で地域教育プログラムに従事したり、お笑い芸人を目指したりと奮起します。しかし、人間関係でつまずき、結果も出ず、無職になり、離婚を経験し、実家に引きこもることとなりました。
頑張りたいのに頑張れない、働く意味が分からない。そんな虚無感にさいなまれていたときに目にとまったのが、書棚にあった「空」の思想に関する東洋哲学の本でした。
「空」はインドの僧侶・龍樹菩薩の思想です。これをしんめいさんは「この世界はすべて『フィクション』である」と受け止めます。つまりすべての悩みはフィクションで、「自分」にも本質がないといいます。
「自分」とは、そもそも「からっぽ」だ。そして、「からっぽ」だからこそが最高なのだ。
まさに、ぼくのための哲学だった。
―『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』(サンクチュアリ出版)より
「空」の哲学に救われたと語るしんめいさんは、「それでもいいんだ」と思えるようになったといいます。
“推し”の1人は親鸞さん
しんめいさんは、多くの人に東洋哲学の魅力を知ってほしいという思いで本書を執筆しており、“推し”の東洋哲学者7人を選びました。「ぜひ“推し”の1人を見つけてほしい」と語るしんめいさんは、7人のうちの1人に、親鸞聖人を挙げています。
親鸞聖人の魅力は、仏教の教えと矛盾する「ダメな自分」に悩みながらも、それを隠さずさらけだし、正直に見つめ続ける在り方だといいます。
聖人に関する章を執筆する際、龍樹の「空」の思想と絡めて書いたため、聖人の思想をしっかりと表現できているかどうか、とても悩んだそうです。しかし、変に「分かった風」を装うと書けなくなると感じたしんめいさんは、正直に「わからない」というところを主軸に執筆したといいます。
取材などを受け、有識者として仏教を語ると、仏教が分かっているような気持ちになるそうです。そうすると、知識に頼って自分が偉くなったと錯覚し、「自分の言うことは正しく、他人の言うことは間違っている」と勘違いしてしまう危険があると語ります。
「節約生活を心がけていても、印税が入るとすぐ中古のポルシェの値段を調べてしまう」と笑いながら話すしんめいさん。慢心しそうになったときこそ、聖人にならい自分は迷いや過ちを繰り返す凡夫だという事実に立ち返り、自分を見つめ直すことが重要だと話してくれました。
(2025.09.01南御堂新聞 第758号掲載)